全電子計算法
電子状態計算において、内殻電子、価電子に関わらずすべての電子を陽に取り扱う方法を指す。内殻電子の影響を擬ポテンシャルに押し込み、価電子のみを陽に取り扱う方法(いわゆる擬ポテンシャル法)と比べて、一般的に計算精度が高いのが特徴である。また、内殻電子を陽に取り扱うことから、内殻電子の X 線分光計算への適合性が高い。一方、考慮する軌道の数が多くなることから、計算量は擬ポテンシャル法より大きくなる。内殻軌道の急峻な変化と、格子間の緩やかな変化に同時に効率的に対応するため、アプリごとに様々な工夫がなされている。
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動的平均場近似
強相関量子格子模型を解く際に、空間相関を無視するものの虚時間方向の相関(動的相関)を精度良く取り込む手法。空間相関が無視できる無限次元、またはそれと等価なベーテ格子などで厳密な計算手法となっている。この手法では、元の格子模型を中心サイト(不純物)と周辺サイト(有効媒質)とに分けて、有効媒質中の不純物問題(アンダーソン模型)に焼き直す。この不純物問題を、有効媒質のグリーン関数・自己エネルギーが元の格子模型のグリーン関数・自己エネルギーに等しいとする条件(自己無撞着方程式)のもとで解くことで、元の格子模型のグリーン関数を含む様々な物理量を求めることができる。不純物問題を解くために厳密対角化、数値繰り込み群法、量子モンテカルロ法などが用いられている。空間相関を取り込むための拡張が盛んに行われている。
半経験的電子状態計算
原子軌道間の重なり積分などの量を数値計算するのではなく、簡単な近似や実験によって得られたパラメータ値を利用することで電子状態計算を行う手法。大きな系の電子状態計算を高速で行うことができる。量子化学計算の分野では、ヒュッケル法(π軌道のみに着目し、重なり積分を無視して隣接原子間の軌道に関するクーロン積分・共鳴積分のみを考える)や拡張ヒュッケル法(π軌道のほかにσ軌道の効果も含める)などが代表的な手法であり、固体の分野では、実験値を再現するような強束縛モデルを利用することも行われる(Slater−Koster法など)。
原子局在基底・ガウシアン基底
波動関数を原子核周辺に局在した関数の線形結合で表現する手法。数値基底やガウス関数などが用いられる。原子の波動関数に似た形をしているため、平面波基底に比べてかなり小さな基底関数系でも分子や凝縮系の波動関数をよく表現できる。一般的に、原子局在基底は互いに直交しないので、多く取れば取るほど精度が良くなるというものではないが、近年では、過完備性を避けながら局在基底関数を構成する方法が多くの第一原理計算アプリケーションで実装されている。原子から離れた場所に電子が存在する場合(エレクトライドやfloating状態など)の取り扱いについては、空原子基底の配置などによって対応可能であるが、その配置方法については系ごとにユーザーが検討する必要がある。また、分子動力学計算やnudged elastic band法などによるダイナミクスの計算を行う際には、空原子基底の位置の制御が難しい場合もある。
厳密対角化
量子多体系を記述するハミルトニアンを行列表示して、その行列を対角化して固有値・固有ベクトルを求めることで量子多体系の性質を求める手法。近似を用いることがないため、有限サイズではあるものの、一番信頼のできる数値計算手法として幅広く用いられている。しかし、波動関数の次元は系のサイズに対して指数関数的に増大することから、十数サイト程度でも、行列の全固有値・全固有ベクトルを求める完全対角化は不可能となり、低励起状態のみを求めるLanczos法などの大規模行列に対する解法を使う必要がある。Lanczos法を用いた量子多体系に対する大規模行列の厳密対角化を行なう、先駆的なパッケージとしてTITPACK, KobePack, SpinPack などがある。また、ALPSでは様々な模型に対して、完全対角化を行なうことが可能である。最近では、一般的なハミルトニアンに対して、大規模並列に対応したソフトウェアHΦが開発されている。
古典モンテカルロ法
物性物理学の文脈では,イジングモデルや古典ガスモデルなど古典統計力学モデルを対象として用いられるマルコフ連鎖モンテカルロ法によるシミュレーション法のことを「古典モンテカルロ法」と呼ぶ.代表的なものはメトロポリスーヘイスティングス法によるものである.シミュレーテッドアニーリングのために行われるマルコフ連鎖モンテカルロ法も古典モンテカルロ法の一種である.とくに系の構成要素(イジングモデルの場合の個々のスピン変数など)を一つずつ選択しては更新する方法は局所更新法と呼ばれる.局所更新法では臨界点近傍で収束が遅くなる(臨界緩和)現象が一般にみられ,その欠点を解消するために多くの構成要素を一度に更新するクラスター更新法などが考案されているが,個々の問題に応じてアルゴリズムをデザインする必要があり,局所更新法に比べて有効な適用範囲が狭い.
古典分子動力学法
原子や分子を古典的な粒子と考え、ニュートン方程式を解くことによりその動きをシミュレーションする手法。微分方程式の解法としては、ルンゲ・クッタ法や速度Verlet法などの積分法が用いられる。エネルギー一定・体積一定のシミュレーションだけでなく、例えば能勢-Hooverの熱浴を導入することにより温度一定の条件でシミュレーションを行うことができる。同様に、圧力一定や化学ポテンシャル一定など、様々なアンサンブルでの計算が可能である。粒子間のポテンシャルエネルギーは力場と呼ばれる。力場についても、剛体球ポテンシャルやレナードジョーンズポテンシャルのような単純なものから、クーロン相互作用のように長距離に及ぶもの、第一原理計算の結果をフィッティングすることにより得られた非常に高精度なものなど、研究の目的や対象に応じて、種々様々な力場が用いられる。
変分モンテカルロ法
試行波動関数を用意して、その試行波動関数が含むパラメータを変分原理に従って最適化することで量子多体系の基底状態(または低励起エネルギー状態)の波動関数を求める手法。フェルミオン系に対する応用では,試行波動関数として一体部分(Slater行列式)に多体相関をとりこむために密度相関の演算子を指数関数の肩にのせたGutzwiller-Jastrowタイプの相関因子を付け加えた波動関数を用いるのが一般的である。試行波動関数に対する物理量の期待値計算の部分にモンテカルロ法を用いているため、変分モンテカルロ法と呼ばれている。モンテカルロ法ではあるものの負符号問題は発生しないため、様々な系に適用できる汎用性の高い手法であることから、第一原理計算[CASINO]・量子化学計算[QWalk]・格子フェルミオン系[mVMC]など幅広く用いられている計算手法である。
実空間基底
実行ジョブ管理
スパコンなどの大規模共用計算機では、ユーザは使いたい計算機資源(計算機の数と時間)を要求し、ジョブ管理システムから動的に割り当てられた資源を使って計算(一般にジョブと呼ぶ)を行う。この一連の流れを補助するために、自動で資源申請を行ったり、割り当てられた資源を自動的にうまく使ったり(負荷分散・ロードバランス)、計算の途中経過を保存・再開したり(チェックポイント機能)、計算結果を入力とともに保存・管理・整形したりする機能を持ったツール・ライブラリが存在し、本サイトではこうした機能を「実行ジョブ管理」と称する。