ユニバーサリティクラス

相転移点近傍で物理量が示す特異的な振る舞いは、系の詳細によらず少数のパラメータ(臨界指数)のみで特徴づけられ、その臨界指数の組み合わせがユニバーサリティクラスと呼ばれる。ユニバーサリティクラスは系が持つ対称性・空間次元のみで決定され、相互作用の大きさや格子構造などの系の詳細には依存しない。相転移現象がどのユニバーサリティクラスに属するかを決定するためには高精度な計算を行なう必要があり、厳密な計算手法であるモンテカルロ法が用いられることが多い。モンテカルロ法を行えるソフトウェアとしてはALPS,DSQSSがあり、モンテカルロ法の計算結果をもとに臨界指数を推定するソフトウェアとしてBSAがある。

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ランチョス法

行列の全固有値・全固有ベクトルを求める全対角化は、lapackなどのパッケージが整備されているが、スーパコンピュータを使っても百万次元程度の行列の対角化が限界である。物性物理の分野では、最もエネルギーが低い基底状態近傍の固有値・固有ベクトルに興味があることが多く、そのために広く使われているのが、ランチョス(Lanczos)法である。

この方法では、初期ベクトル(多くの場合はベクトルの各成分を乱数にしたランダムベクトル)にハミルトニアンを順次かけていくことによって、最もエネルギーの低い基底状態のベクトルを抽出する方法である。原理的にはベクトルを二本保持するだけで計算が実行できることから、全対角化に比べて計算コストが低く、全対角化で取り扱うのが不可能な数億-数百億次元の行列の基底状態を求めることができる。

ランチョス法が実装されているアプリはTITPACK,KobePACK,SpinPACK,ALPS,HΦがある。HΦでは特に、近年提案された低エネルギー固有状態を求めるLOBPCG法 も実装されており、一度の計算で、多数の(基底状態を含む)低エネルギー固有状態を求めることができる。

リートベルト解析

X線や中性子線の粉末回折パターンから結晶構造を推定する解析手法。粉末回折の測定結果から、パターンフィッティングにより結晶構造を求めることができる。

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リカーシブグリーン関数法

ポテンシャル中の電子の散乱問題を取り扱うときに有効な計算手法。電子のグリーン関数を直接計算することで、電子の透過振幅・反射振幅などを評価することができる。ランダウアー公式と組み合わせることで、ナノスケール素子の電子の輸送特性を評価することが可能である。リカーシブグリーン関数法では、空間メッシュを導入したのち、電子の伝搬方向に沿ってグリーン関数を逐次求めることで、電子の散乱状態についての高速な計算を実現している。磁性体・超伝導体などを取り扱うこともできる。代表的なアプリはKwantである。

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有効遮蔽媒質法(ESM法)

スラブモデル(2次元方向にのみ周期境界条件を課した3次元空間中の物理系モデル)において、帯電した系や電場印加下の物質の電子状態を取り扱うときに用いられる第一原理計算の手法。2次元の周期境界条件を満たしながら、それに垂直な方向に対して境界条件を設定し、その条件下でのポアソン方程式をグリーン関数法によって解くことで、電場印加や帯電の効果を適切にとりこむことができる。多くの第一原理計算パッケージでサポートされている。

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量子モンテカルロ法

量子多体系のシミュレーションに用いられるモンテカルロ法の総称。虚時間時間経路積分表示にもとづき、d次元の量子多体系をd+1次元の古典系として表現した上でマルコフ連鎖モンテカルロ計算を実行する経路積分モンテカルロ法や、虚時間発展を古典の拡散方程式と見直すことにより基底状態波動関数をサンプリングする拡散モンテカルロ法、変分波動関数に対するエネルギーの期待値をマルコフ連鎖モンテカルロ法により評価することで最適化を行う変分モンテカルロ法など、様々なタイプの量子モンテカルロ法が存在する。

量子化学計算

分子など主に孤立系の電子状態計算を行う手法をまとめて量子化学計算と呼ぶ。多くのアプリでは分子軌道法を基にした各種計算手法を実装していることが多い。ハートリー-フォック近似法は、多体波動関数を単一のスレーター行列で近似することで分子軌道の波動関数の最適化を行う手法である。ハートリー-フォック近似では無視されている電子相関効果を取り入れる手法として、摂動法、Configuration Interaction(CI)法、結合クラスター法などがある。摂動論は電子相関を摂動理論によって取り扱う手法で、Møller-Plesset(MP)法と呼ばれる。摂動の次数により、MP2法, MP3法, MP4法などのように表記される。CI法は、ハートリー-フォック法で得られた基底状態(軌道に下から電子をつめていった状態)に加えて、その電子配置から電子を一つだけ移動させた状態(1電子励起ハートリー-フォック状態),電子を2つ移動させた状態(2電子励起ハートリー-フォック状態)などを用意し、その線形結合を考えてエネルギーを最小化させる手法である。CI法は、適切に用意するスレーター波動関数の数を増やしていくと、厳密な波動関数に近づくが、計算コストは上昇していくため、通常は特定の次数で打ち切ることになる。スレーター波動関数の組をどこまで用意するかによって,Full-CI, CID(2電子励起のみ), CISD(1電子励起および2電子励起のみ), QCISD(改良されたCISD)などの手法がある。結合クラスター法は、特定の配位について部分和をとる形で波動関数を改良する方法(Coupled Cluster法、略してCC法)もよく使われる。どの配置を考えるかによって、CCD(2電子励起のみ), CCSD(1電子励起および2電子励起のみ), CCSD(T)(3電子励起を摂動論で考慮)などの名前がついている。これらのハートリー-フォック近似をベースとした計算手法のほかに、密度汎関数法に基づく電子状態計算も広く用いられている。