X線分光解析

X線を物質に照射すると、物質に含まれる原子の内殻励起に起因する元素に特有なエネルギーでX線吸収が起こる。このX線吸収端における吸収スペクトルの微細構造をXAFS(X-ray Absorption Fine Structure, X線吸収微細構造)と呼び、これを解析することで原子の局所構造に関する情報を得ることができる。X線分光解析にあたって、着目する原子および隣接する原子の電子状態を計算し、実験と比較することが必要となる。X線分光解析用のアプリ(FEFF, Demeter, Missingなど)には電子状態計算を行う機能がついており、実験との比較を簡単に行うことができる。また、X線吸収スペクトルを計算する機能が付属している第一原理計算アプリ(WIEN2k, Exciting, Quantum ESPRESSO, ABINITT, AkaiKKR, SPRKKR, GPAWなど)を用いることで、より精度の高い分光解析を行うことも可能である。

イジング模型 (Ising model)

強磁性体における常磁性・強磁性相転移を記述するために導入された、統計力学で最も基本的な模型の一つ。 ±1 の2値を取る「スピン」を格子状に並べて、隣り合う2つのスピン間にはその大きさがスピン値の組み合わせに依存するような相互作用を考える。スピンが互いに同じ値を取るとエネルギーが下がるような相互作用(強磁性相互作用)がある時には、絶対零度ではすべてのスピンが同じ値をとる強磁性状態(秩序相)になる。一方で高温極限ではエントロピーが大きい状態、すなわちすべてのスピンが互いに独立に、ばらばらな値を取るような無秩序相(常磁性状態)となる。ある特定の温度で秩序相と無秩序相とが切り替わる現象が、有限温度相転移である。また、相互作用の符号や大きさをスピン対ごとにランダムにすることで、基底状態を求めることが困難になったり、熱緩和時間が非常に長くなるスピングラス状態が現れたりと、数値計算であっても解くことが難しくなる。イジング模型は古典統計力学の模型であるが、スピンを反転させる外場である横磁場を導入することで量子模型(横磁場イジング模型)にすることができ、横磁場の強さによって絶対零度でも強磁性・常磁性相転移を起こすことができる(量子相転移)。このように、単純ながら様々な現象が起きるため、古典統計力学、量子統計力学だけではなく、情報統計理論や量子情報理論でも重要な模型である。