ハバード模型 (Hubbard model)

遷移金属酸化物の電子状態を記述する理論模型としてHubbard・Kanamori(金森)・Gutzwillerらによって独立に提案された模型。最近接のトランスファーとオンサイトクーロン相互作用のみを含む単純な模型であるものの、その理論解析は難しく一次元などの限られた場合にしか厳密なことはわかっていない。強磁性・反強磁性・モット絶縁体・高温超伝導など現在の固体物理で注目されている多くの現象を記述する最も基本的な模型として盛んに研究が行われている。少数サイトのハバード模型の厳密対角化を行えるソフトウェアとして、ALPS、SpinPack, HΦがあり、HΦでは動的物理量計算及び熱的純粋量子状態を用いた有限温度計算も可能である。また、動的平均場近似を用いた計算はALPS,pyDMFTを用いて行えることができ、変分モンテカルロ法を用いた計算をmVMCを用いて行なうことができる。

フェーズフィールド法

フェーズフィールドと呼ばれる場の変数を用いて、不均一場における連続体模型を取り扱う手法。場の変数として密度場や温度場などのほかに、相の状態を記述する連続場(秩序変数)も導入することで、相転移現象を伴う多くの物理現象(凝固現象や相変態など)や組織形成過程の現象論的なシミュレーションに応用されている。連続場はギンツブルク-ランダウ方程式を基礎としており、モデル中のパラメータは相の自由エネルギーで決められているため、CALPHAD(Calculation Phase Diagram)法など他の手法で得られた自由エネルギー関数をそのまま利用できる。このようにして得られた時間発展方程式を解くことにより、秩序変数のダイナミクスが得られる。すべての物理量が連続場で書かれているため計算コードが書きやすく、公開もしくは市販されているプログラムを利用することができる。

関連ソフトウェア

フラグメント分子軌道法

巨大な分子の量子化学計算に用いられる方法.巨大な分子系を小さなフラグメントに分割し、フラグメントとフラグメントペアについて、他のフラグメントの静電ポテンシャル下で、分子軌道法と同様の計算を行うだけで、分子の全エネルギーを計算する方法である。

関連ソフトウェア

ベイズ最適化

形の分からない関数(ブラックボックス関数)の最適値(最大値あるいは最小値)を求める機械学習手法の一つ。有限個の点における関数値からガウス過程により関数の形を予測し、最適値を持つと期待される点あるいは不確定性の大きな点から優先的に探索を行う。探索点を逐次的に追加し、徐々に予想の精度を高めることで、比較的高次元の探索空間においても効率的に最適点を見つけ出すことが可能となる。

 

マルコフ連鎖モンテカルロ法

すべての状態に関する重み付き平均を確率的なサンプリングに置き換えることで、熱平衡状態における物理量の平均値を効率よく計算する手法。単に「モンテカルロ法」とも呼ばれることも多い。磁性体の理論模型であるイジング模型を例にとると、取りうる状態、すなわちスピン配位の総数は、スピン数に対して指数関数的に増加する。そのため、ごく小さな系を除き物理量の期待値を厳密に計算することは不可能である。マルコフ連鎖モンテカルロ法では、つりあい条件とエルゴード性の二つの条件を満たす確率過程を考え、状態をそのボルツマン重みにしたがって確率的に生成することで、物理量の熱平均を確率過程の時間平均で置き換える。代表的な例としては、メトロポリス法や熱浴法などが挙げられる。相転移点近傍やフラストレーションが強い系においては、しばしば平衡状態への緩和が問題となるが、拡張アンサンブル法や非局所更新法など緩和を速めるための様々な工夫もなされている。

モンテカルロ法

擬似乱数を用いてサンプリングを行うシミュレーション手法の総称。状態空間を均等な密度でサンプルするランダムサンプリング法をはじめ、重みを考慮に入れた重点的サンプリング、マルコフ連鎖モンテカルロ法など様々な手法が考案されている。モンテカルロ法は、サンプリングだけではなく、シミュレーテッドアニーリングによる最適化問題の解法などにも利用されている。

ユニバーサリティクラス

相転移点近傍で物理量が示す特異的な振る舞いは、系の詳細によらず少数のパラメータ(臨界指数)のみで特徴づけられ、その臨界指数の組み合わせがユニバーサリティクラスと呼ばれる。ユニバーサリティクラスは系が持つ対称性・空間次元のみで決定され、相互作用の大きさや格子構造などの系の詳細には依存しない。相転移現象がどのユニバーサリティクラスに属するかを決定するためには高精度な計算を行なう必要があり、厳密な計算手法であるモンテカルロ法が用いられることが多い。モンテカルロ法を行えるソフトウェアとしてはALPS,DSQSSがあり、モンテカルロ法の計算結果をもとに臨界指数を推定するソフトウェアとしてBSAがある。

関連ソフトウェア

ランチョス法

行列の全固有値・全固有ベクトルを求める全対角化は、lapackなどのパッケージが整備されているが、スーパコンピュータを使っても百万次元程度の行列の対角化が限界である。物性物理の分野では、最もエネルギーが低い基底状態近傍の固有値・固有ベクトルに興味があることが多く、そのために広く使われているのが、ランチョス(Lanczos)法である。

この方法では、初期ベクトル(多くの場合はベクトルの各成分を乱数にしたランダムベクトル)にハミルトニアンを順次かけていくことによって、最もエネルギーの低い基底状態のベクトルを抽出する方法である。原理的にはベクトルを二本保持するだけで計算が実行できることから、全対角化に比べて計算コストが低く、全対角化で取り扱うのが不可能な数億-数百億次元の行列の基底状態を求めることができる。

ランチョス法が実装されているアプリはTITPACK,KobePACK,SpinPACK,ALPS,HΦがある。HΦでは特に、近年提案された低エネルギー固有状態を求めるLOBPCG法 も実装されており、一度の計算で、多数の(基底状態を含む)低エネルギー固有状態を求めることができる。

リートベルト解析

X線や中性子線の粉末回折パターンから結晶構造を推定する解析手法。粉末回折の測定結果から、パターンフィッティングにより結晶構造を求めることができる。

リカーシブグリーン関数法

ポテンシャル中の電子の散乱問題を取り扱うときに有効な計算手法。電子のグリーン関数を直接計算することで、電子の透過振幅・反射振幅などを評価することができる。ランダウアー公式と組み合わせることで、ナノスケール素子の電子の輸送特性を評価することが可能である。リカーシブグリーン関数法では、空間メッシュを導入したのち、電子の伝搬方向に沿ってグリーン関数を逐次求めることで、電子の散乱状態についての高速な計算を実現している。磁性体・超伝導体などを取り扱うこともできる。代表的なアプリはKwantである。

関連ソフトウェア