量子モンテカルロ法

量子多体系のシミュレーションに用いられるモンテカルロ法の総称。虚時間時間経路積分表示にもとづき、d次元の量子多体系をd+1次元の古典系として表現した上でマルコフ連鎖モンテカルロ計算を実行する経路積分モンテカルロ法や、虚時間発展を古典の拡散方程式と見直すことにより基底状態波動関数をサンプリングする拡散モンテカルロ法、変分波動関数に対するエネルギーの期待値をマルコフ連鎖モンテカルロ法により評価することで最適化を行う変分モンテカルロ法など、様々なタイプの量子モンテカルロ法が存在する。

量子化学計算

分子など主に孤立系の電子状態計算を行う手法をまとめて量子化学計算と呼ぶ。多くのアプリでは分子軌道法を基にした各種計算手法を実装していることが多い。ハートリー-フォック近似法は、多体波動関数を単一のスレーター行列で近似することで分子軌道の波動関数の最適化を行う手法である。ハートリー-フォック近似では無視されている電子相関効果を取り入れる手法として、摂動法、Configuration Interaction(CI)法、結合クラスター法などがある。摂動論は電子相関を摂動理論によって取り扱う手法で、Møller-Plesset(MP)法と呼ばれる。摂動の次数により、MP2法, MP3法, MP4法などのように表記される。CI法は、ハートリー-フォック法で得られた基底状態(軌道に下から電子をつめていった状態)に加えて、その電子配置から電子を一つだけ移動させた状態(1電子励起ハートリー-フォック状態),電子を2つ移動させた状態(2電子励起ハートリー-フォック状態)などを用意し、その線形結合を考えてエネルギーを最小化させる手法である。CI法は、適切に用意するスレーター波動関数の数を増やしていくと、厳密な波動関数に近づくが、計算コストは上昇していくため、通常は特定の次数で打ち切ることになる。スレーター波動関数の組をどこまで用意するかによって,Full-CI, CID(2電子励起のみ), CISD(1電子励起および2電子励起のみ), QCISD(改良されたCISD)などの手法がある。結合クラスター法は、特定の配位について部分和をとる形で波動関数を改良する方法(Coupled Cluster法、略してCC法)もよく使われる。どの配置を考えるかによって、CCD(2電子励起のみ), CCSD(1電子励起および2電子励起のみ), CCSD(T)(3電子励起を摂動論で考慮)などの名前がついている。これらのハートリー-フォック近似をベースとした計算手法のほかに、密度汎関数法に基づく電子状態計算も広く用いられている。

非平衡グリーン関数法

物性物理の理論計算でよく用いられる方法の一つが、場の理論をベースとするグリーン関数法の一つである。通常は、基底状態を取り扱うのに有効な絶対零度に対するグリーン関数法や、熱平衡状態を取り扱うのに有効な温度グリーン関数法などがよく用いられる。しかし、熱平衡状態からある程度離れた状態(非平衡状態)を記述するためには、定式化を大きく変更する必要がある。

非平衡グリーン関数法は、系の非平衡状態を記述する密度行列の時間発展方程式に着目し、順方向の時間発展と逆方向の時間発展の2つの時間経路を組み合わせた特別な時間経路(ケルデッシュ経路)を考察することにより、種々のグリーン関数を定式化する方法である。これにより非平衡状態を通常の熱平衡グリーン関数とほぼ同じファインマン図形の方法によって定式化することができる。この定式化では、状態密度の情報を担う遅延グリーン関数・先進グリーン関数と、分布関数の情報を担うLesserグリーン関数が、独立な関数として定式化される。

この手法は、物質に電極をとりつけて直流電圧を加えたときの輸送特性を議論するときに有効である。ナノ構造に対する半無限電極の影響を自己エネルギーとして取り込んで計算した種々のグリーン関数から、非平衡状態の電子密度やコンダクタンスの情報を得ることができる。この計算手法は、OpenMX, Siestaなどの第一原理計算ソフトウェアで実装されている。