非平衡グリーン関数法
物性物理の理論計算でよく用いられる方法の一つが、場の理論をベースとするグリーン関数法の一つである。通常は、基底状態を取り扱うのに有効な絶対零度に対するグリーン関数法や、熱平衡状態を取り扱うのに有効な温度グリーン関数法などがよく用いられる。しかし、熱平衡状態からある程度離れた状態(非平衡状態)を記述するためには、定式化を大きく変更する必要がある。
非平衡グリーン関数法は、系の非平衡状態を記述する密度行列の時間発展方程式に着目し、順方向の時間発展と逆方向の時間発展の2つの時間経路を組み合わせた特別な時間経路(ケルデッシュ経路)を考察することにより、種々のグリーン関数を定式化する方法である。これにより非平衡状態を通常の熱平衡グリーン関数とほぼ同じファインマン図形の方法によって定式化することができる。この定式化では、状態密度の情報を担う遅延グリーン関数・先進グリーン関数と、分布関数の情報を担うLesserグリーン関数が、独立な関数として定式化される。
この手法は、物質に電極をとりつけて直流電圧を加えたときの輸送特性を議論するときに有効である。ナノ構造に対する半無限電極の影響を自己エネルギーとして取り込んで計算した種々のグリーン関数から、非平衡状態の電子密度やコンダクタンスの情報を得ることができる。この計算手法は、OpenMX, Siestaなどの第一原理計算ソフトウェアで実装されている。