PHASE を用いたリチウムイオン二次電池の第一原理計算と劣化原因の探索
リチウムイオン二次電池は、正極、負極と電解質の間をリチウムイオンが行き来する事により充放電を行います。しかし、現在でも何回も使っていく事により副生成物の生成や変質が発生し、その性能が低下していく課題があります。
ニッケルマンガンコバルト酸化物正極材料は現在広く用いられている活物質ですが、この使用前後における原子配列の変化を確認する為に電子顕微鏡で調べました。その結果を図1へ示しましたが、図1(左)では試験前の観察結果であり、白い球で示された金属イオンがリチウムイオンと交互に規則正しく配列しています。一方で試験後の場合、図1(右)で示した様に、原子配列が変化している事が判ります。これは、カチオンミキシングとして知られる現象で、充放電を繰り返すとリチウムイオンと金属イオンが入れ替わってしまいます。
図1 (左) 試験前の観察結果 | (右) 試験後の観察結果 |
その結果、図2(A)で示した正常な場合、リチウムイオンが運動する為のエネルギーは約1電子ボルト程度となりましたが、一方で、図2(B)で示した様にカチオンミキシングした場合は約3電子ボルトと見積もられました。このエネルギーの大きさから、カチオンミキシングは容量低下の一因を担う事が示されました[2]。このカチオンミキシングが電池の性能へどう言った影響を与えるか調べる為に、第一原理計算を行いました。計算に用いたモデルは図2へ示しました。図2(A)は正常な場合であり、充放電する為にリチウムイオンが結晶中を移動するエネルギーを見積もる為のモデルです。次に、カチオンミキシングした場合のモデル(図2(B))を用いて、誤った位置へ入ったリチウムイオンが再び正常な位置へ戻る時のエネルギーを計算しました。この正極はニッケル、マンガン、コバルトがランダムに構成する複雑な構造であるので、スーパーコンピュータ京で実行しました(HPCIシステム利用研究課題 約100万ノード時間積)。計算プログラムは物質材料研究機構 大野教授らにより開発されたPHASE Ver.11[1]を用いました。このプログラムは、スーパーコンピュータ京で効率よく計算できる様設計されており、そして、Nudged Elastic Band法、分子動力学計算、格子振動の計算と言ったリチウムイオン二次電池の問題に必要な機能が整備されております。このプログラムを用い、リチウムイオンが運動する時のエネルギーを計算しました。
この様にPHASEを利用する事により、原子配置の変化が与えるリチウムイオン二次電池への影響を定量的に評価する事が出来ます。
図2 (A)正常の場合, (B) カチオンミキシングした場合 |
[1] PHASE is a program package for first-principles calculations based on the density functional theory, developed within the RISS project supported by MEXT of the Japanese government.
See the website Research and Development of Innovative Simulation Software,
URL: http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/riss/english/.
[2] T. Segi, R. Shu, T. Tsubota and T. Yamaue, JPS Conf. Proc. 5, 011014 (2015).