ERmodを用いた高分子の自由エネルギー計算と高分子機能膜設計
東レでは、地球環境問題に先端材料で貢献するグリーンイノベーション事業を全社プロジェクトとして展開しています。本プロジェクトでは、次世代のエネルギー源として期待される燃料電池用の高分子電解質膜や、乾燥地域における水資源確保の手段として注目される海水淡水化用の逆浸透膜など、地球環境問題の緩和・解決に欠かせない先端材料として高分子膜が大きな期待を集めています。
私たちは、高度な選択的透過性を備えた高分子膜を設計するため、溶解・拡散理論というアプローチを取っています(図)。拡散項については分子動力学計算で拡散係数を求め、溶解項については溶解自由エネルギーを計算すれば、分子シミュレーションによって高機能な膜を設計する道が開けることになります。ところが、自由エネルギーは極めて計算負荷の高い物理量であり、高分子に対する低分子の溶解自由エネルギーを現実的な時間と手間で算出できるようにする必要がありました。
そこで私たちは、高速・高精度な自由エネルギー計算理論であるERmodを高分子に適用する研究を始め、高分子と低分子との相互作用エネルギーの計算方法やエネルギー汎関数の改良など様々な検討を行った結果、現実的な計算時間と精度で溶解自由エネルギーを計算できる技術を構築しました[1]。現在では高分子電解質や分離膜について本技術を用いた成果が徐々に出始めており、会社内でも高く評価されています。
また、私たちが主に利用しているERmodは、高分子用のカスタマイズ版ですが、公開版のERmodも、オープンソースのMDコードとの組み合わせにより、様々な応用が可能です。チュートリアルも用意されていますので、ぜひお試しください。
図:溶解・拡散理論の概念図。ERmodを用いて溶解自由エネルギーを高速・高精度に計算する技術の確立により、本技術を実用化できた。
[1] T. Kawakami, I. Shigemoto, and N. Matubayasi, J. Chem. Phys. 137, 234903 (9 pages) (2012).