開発者の声
アプリの歴史
溶液・脂質膜・ミセル・タンパク質のようなソフトな分子(集団)は、他の分子を取り込む(結合する)ことで、機能を発現します。全ての場合で鍵を握る物理量は、取り込む側と取り込まれる側の相互作用による安定化/不安定化の自由エネルギーです。ermodは、ソフト分子(集団)における物質取り込みを支配する自由エネルギーを、統一的枠組みの中で解析し、高速に計算するプログラムとして開発されました。統一的枠組みの構築のために、溶質・溶媒の概念を拡張し、溶質ー溶媒間の2体相互作用エネルギーの分布関数から溶媒和自由エネルギーを構成するエネルギー表示法を新規に定式化し、フリーソフトermodの開発を行っています。
アプリの魅力
ermodのターゲットは、(拡張された意味での)溶媒和の自由エネルギーです。これが計算できると、ソフト分子(集団)への分子結合の強度が決定できます。また、不均一系における結合サイトの決定も可能です。自由エネルギーは、物質分配・分子認識・分離・化学反応などを支配する極めて重要な物理量ですが、その計算コストの高さが、しばしば問題になります。ermodによる溶媒和自由エネルギー計算では、MDとエネルギー表示溶液理論を組み合わせることで、通常のMDを行うのと同程度の労力で、自由エネルギーを算出できます。溶媒和自由エネルギーを、それを表現する分布関数によって、分子レベルで解析することもできます。溶質種と溶媒種の選択によって、ミセル・脂質膜への分子結合を含む多くの物質取り込み現象を、拡張型溶媒和として取扱います。拡張性が極めて広い点も特徴の一つです。
アプリの将来性・応用可能性
拡張型の溶媒和に関わる自由エネルギー変化が、ermodのターゲット量です。アプリとしてみると、古典力場系での計算が現状可能ですが、理論としては、量子ー古典混合(QM/MM)系も取り扱い可能です。電子分布を点電荷に縮約すること無く、あるがままの雲上分布として扱うことができ、さらに、電子構造ゆらぎの効果を取り入れることもできます。これまでに、電子の付加(還元)を溶媒和と見なし(溶質は電子)、還元電位の計算を行いました。さらに、高分子系への展開が期待されます。緩和が遅く、長大な計算が必要とされる高分子系の全原子自由エネルギー計算が高速化されます。高分子鎖を多数のセグメントに分け、各セグメントを溶媒種と見なす形の定式化が可能であり、全原子レベルと粗視化モデルの記述をつなぐことも展望されます。
開発者の夢
溶液(非水系やイオン液体、超臨界流体も含む)、脂質膜、ミセル、タンパク質、高分子、およびQM/MM系のような多種多様な系での物質結合を、(拡張型の)溶媒和として統一的に取扱うことを企図しています。弱秩序分子集団系の理論発展という学術的側面(いわゆる「役に立たない」)へも寄与でき、同時に、実験との連携・産業応用という実際的側面(いわゆる「役に立つ」)へも寄与できるという意味で、溶液理論の開発が真のfundamentalであることを示したいと考えています。