「京」を利用した磁性材料の微細構造界面のOpenMXによる大規模第一原理計算
ディスプロシウムなどの希少元素の使用量を極力抑えた永久磁石材料の開発・改良が社会的要請として求められています。そのための第一歩として、現在最強の磁石として様々な用途で使われているNd-Fe-B焼結磁石の磁気特性を電子論的に理解する事が、現在我々の取り組んでいるテーマです。Nd-Fe-B焼結磁石の結晶粒を構成しているのはNd2Fe14B相ですが、Nd2Fe14B単結晶の磁気状態からだけではNd-Fe-B焼結磁石の磁気特性を理解する事はできません。この事情は、多くの電子デバイスや光デバイスの特性が、本質的な部分では単結晶の電子構造から設計出来るのとは対照的です。そのため、焼結磁石材料を構成する微細構造の効果を取り入れる事が必須となってくるのですが、微細構造を丸ごと第一原理計算でシミュレーションする事は少なくとも現状では不可能ですので、磁化反転核生成や磁壁移動のピン止めなど磁気特性を支配するイベントが起こっていると予想される異なる相同士の界面の性質を理解しようとしています。 |
その様な微細構造界面の第一原理計算では、大規模並列計算に適した局在基底によるOpenMXコード[1]を使っています。OpenMXコードはスタンダードな第一原理計算だけでなく、大規模計算向けのアルゴリズムであるオーダーN法も用いる事が出来るので、オーダーN計算により原子構造を最適化し、その構造における磁気特性を通常のアルゴリズムによって理論解析しています。計算規模は構造モデルに依存しますが、1例としては2700原子(36000電子)を含む界面構造に対して、「京」のHPCI一般利用枠によって約20000コアを用いた大規模並列計算を行っています(図)。 |
必要とする磁気特性の中でも特に重要なものが磁気異方性エネルギーです。この物理量を理論解析するためには、磁気モーメント同士の相対的な向きだけでなく、空間方向での依存性を調べる必要があります。また、微細構造界面での局所的な磁気異方性を明らかにする事も重要です。そのために我々は、遍歴電子による磁気異方性エネルギーをサイト毎に分解する手法を開発しました[2]。今後は当該手法を用いて微細構造界面における局所磁気異方性に対する遍歴電子・局在電子それぞれの役割を理解・最適化する事に取り組みたいと考えています。 |
図:主相(Nd2Fe14B)と副相(dhcp Nd)の界面構造の例 |
[1] T. Ozaki, Phys. Rev. B 67, 155108 (2003); www.openmx-square.org/
[2] Z. Torbatian, T. Ozaki, S. Tsuneyuki, and Y. Gohda, Appl. Phys. Lett. 104, 242403 (2014).