「京」を利用したタイヤ用ゴム材料のJOCTA/VSOPによる大規模粗視化分子動力学シミュレーション
我々は、高性能なタイヤ用ゴム材料の研究開発に最新のシミュレーション技術を活用しています。一般にゴム材料開発の現場では、粘弾性、強度、耐候性などの様々な要求性能に応じて配合や工程を調整しています。しかし、その調整には多大な時間と労力が費やされています。その原因の一つは、ゴム材料の性能発現と密接に関係する材料内部の分子レベルの構造の観察の難しさにあります。
そのため、我々はゴム材料開発のブレイクスルーを目的に、2012年より「京」コンピュータを用いてゴム材料の分子レベルの構造の見える化に取り組んでいます。「京」ではJ-OCTA/VSOPを用いて、大規模粗視化分子動力学シミュレーションを実施しています。
「京」を用いて我々は、例えば、これまで電子顕微鏡等での実験での観察が不可能であった、サブμmスケールのゴムの破壊の様子を観察することに初めて成功しました(下図)。ポリマーと充填材の間で生じた剥離を観察できていることが分かります。ゴムの破壊の詳細解析においては、分子レベルの解像度とサブμmスケールの広視野が必要であり、今回、「京」を利用した総粒子数約1.4億の大規模粗視化分子動力学計算により初めて解析が可能となりました。
さらに、現在我々は、「京」コンピュータに加えて、SPring-8、J-PARCなどの大型実験施設も相補利用し、次世代のタイヤ用ゴム材料の創出を目的とした研究開発を進めています。
図:総粒子数約1.4億の大規模シミュレーションにより得られた、ゴムの破壊の様子。紫はポリマー、白は充填材を示す。